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浙江省のお茶事情

浙江省は、「茶聖」と呼ばれる陸羽が活躍した所でもあり、茶の博物館や研究所も多く、名実ともに中国茶業の中心となっている。浙江省の茶園面積(14.3万ha)は日本の約3倍弱で、約12万tが生産されている。この約85%が釜炒り製の緑茶であるが、紅茶や烏龍茶を含めたような茶が作られている。

茶の摘採は、3月下旬から10月中旬にかけて、2~3日間隔で茶園を廻りながら若い芽を手で摘む方法が一般的で、日本のように機械で一斉に摘むのは10%にも満たない。気にかかる日本向けの蒸し製煎茶の生産には、栽培・加工に高度の技術を要すること、釜炒り茶用の品種で作ることから、旨味や香りなどの品質確保が難しいこと、製茶機械への多額な投資が必要であることなどから、急速な増産は難しいとのことであった。

中国での茶の消費は、経済の発展や茶文化の普及につれ高級化志向が進む一方、都市部では日本と同様に、ペットボトルや缶入り茶も急速に普及しているように見受けられた。しかし、茶の小売店を覗けば、様々な形をした緑茶や紅茶、烏龍茶など様々な種類の茶が並べられている。それぞれお茶を飲むシーンを想像するだけでも愉しいが、生活の中に溶け込んだ茶の力強さや豊かさが感じられ、煎茶に特化している日本茶の脆弱性を考えさせられる。

浙江省には、高級銘茶の一つとして中国最高峰の緑茶「龍井茶」がある。龍井茶は一つ一つの茶芽が扁平に伸ばされ芸術的な形をしている。ガラスコップに入れられた茶芽が開いてくるのを眺めながら、透き通った明橙の茶を飲めば、その香りは新鮮で持久力に富み、味は爽やかな芳醇さを持っている。何杯飲んでも飽きないこのお茶が、時代を越えて国内外で絶賛されてきたのも頷ける。  

この龍井茶は、杭州西湖周辺の霧のたつ山間地で生産される。茶園面積は700ha、生産量は500t余り、農家当たりの経営規模も20~30aと非常に小さい。摘採から製造まで全てが手作りのため、規模拡大は難しいが、経営的には比較的安定している。その理由は、観光客や都市住民を相手に庭先での実演販売や、他地域ではまねの出来ない高品質性が上げられる。また、龍井茶は従来から贈答用に多く用いられてきたが、最近ではその傾向を一層強め、銘茶ブランドとしての地位を確立させている。このような経営戦略は、日本の山間地茶業の将来方向を模索する上で見習うべき点が多いように感じられた。

その他、中国ではお茶の健康に果す効能についてPRすることはもとより、茶芸などの文化活動を学校の授業外教育の一環として位置づける動きもあるようだ。青少年の茶に対する関心を深め、喫茶の習慣を育てることで国内需要の拡大を目指しているのである。