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虫歯予防効果

虫歯菌(Streptococcus mutans, S. sobrinusなど)は、口腔内で増殖し、グルコシルトランスフェラーゼという酵素を分泌します。この酵素は、ショ糖から粘着性で不溶性の多糖類グルカンを生成しますが、このグルカンが菌体とともに歯の表面に付着して歯垢(プラーク)を形成します。歯垢内で、虫歯菌は糖を代謝して乳酸などの酸を生成し、この酸が歯表面のエナメル質からカルシウムを溶出することで、虫歯が進行します。

まず、茶葉には虫歯菌の生育を抑える成分として、カテキン類(文献1)・ネロリドールなどの香気成分(文献2)・高分子ポリフェノール化合物(文献3)などが含まれていることが報告されています。また、グルカン形成酵素であるグルコシルトランスフェラーゼの活性を阻害する成分としては、カテキン類(文献4)・烏龍茶ポリフェノール類(文献5)・紅茶テアフラビン類(文献6)などがあります。緑茶ポリフェノールは、虫歯菌の付着性を抑制するという報告もあります(文献7)。さらに、緑茶・紅茶抽出物は、唾液と虫歯菌のアミラーゼ活性を阻害することで、デンプンからマルトースへの分解を抑制し、虫歯菌が利用しやすい糖の形成を抑えます(文献8)。このように、茶葉ポリフェノール類は、虫歯形成の様々な過程を抑制することで、それを予防する力があるものと考えられます。これらの有効成分の化学構造を、図1に示します。

ところで、茶葉にはフッ素が多く含まれていることが知られており、普通の茶の煎れ方でその多くが溶出されてきます。フッ素には、CaF2様物質のエナメル表面への沈着を促進し、歯の表面を丈夫にする効果があります。

このような様々な成分と働きによる茶の虫歯予防効果は、動物実験においてもヒトの場合においても、すでに確かめられています。例えば、烏龍茶や緑茶のポリフェノール類はラットの虫歯形成を抑制しますし(文献9,10)、ある小学校で給食のあとに緑茶を飲ませたところ、児童の虫歯にかかる率が減少したという報告もあります(文献11)。茶の虫歯予防効果は、ガム等の菓子類への添加という形で、すでに実用化されています。

(参考文献)

  1. Sakanaka, S., et al. (1989): Agric. Biol. Chem., 53, 2307.
  2. Kubo, I., et al. (1992): J. Agric. Food Chem., 40, 245.
  3. Yoshino, K., et al. (1996): J. Food Hyg. Soc. Japan, 37, 104.
  4. Sakanaka, S., et al. (1990): Agric. Biol. Chem., 54, 2925.
  5. Nakahara, K., et al. (1993): Appl. Environ. Microbiol., 59, 968.
  6. Hattori, M., et al. (1990): Chem. Pharm. Bull., 38, 717.
  7. Otake, S., et al. (1991): Caries Res., 25, 438.
  8. Zhang, J. and Kashket, S. (1998): Caries Res., 32, 233.
  9. Ooshima, T., et al. (1993): Caries Res., 27, 124.
  10. Sakanaka, S., et al. (1992): Biosci. Biotech. Biochem., 56, 592.11. Onishi, M., et al. (1981): J. Dent. Hlth., 31, 158.

(芳野 恭士)

図1 虫歯予防効果を持つ茶葉成分(画像をクリックしてください)