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喫茶文化の紹介

「お茶の子さいさい」

「そんなこたあ、お茶の子さいさいよ」という声を聞けば、自信満々の誰かの顔が思い浮かびます。ものごとを簡単にやってしまうという意味のこの表現は、俗謡の「のんこさいさい」という囃子詞がもとになったといわれています。では、言い回しの核となっている、「お茶の子」とはなんでしょうか。

茶の子というのは、けっこう古くからの言葉です。たとえば戦国時代、駿府の今川義元の屋形に半年ほど滞在していた公家の山科言継(やましなときつぐ)は、日記にしばしば、仲のよいお坊さんと茶の子餅で酒を飲んだと書いています。江戸時代には、朝の軽い食事用に茶の子餅を売って歩く者がいたそうです。このような使われ方をしていた茶の子の語源は、お茶に従う子供のようなもの、ということからきたと考えられています。

しかし、茶という表現は、単純に飲むお茶だけをさすのではなく、茶粥などの茶をベースにした食べ物もさしていました。だから、茶の子というのは、必ずしも飲むお茶に付随する食べ物という意味ではなく、主食に準じる食べ物としての茶よりもさらに簡単な食べ物、ということになります。実際、天竜川上流の山間部では、朝起き抜けに軽く腹に入れる食べ物を茶の子と呼びますが、別にお茶を飲みながら食べるわけではありません。

そういえば、伊豆の漁師さんが好んで食べるマゴチャという食べ物があります。とりたてのカツオの刺し身をご飯に載せ熱いお茶をかけて食べる。あまり美味しいのでマゴマゴしていると人に食べられてしまうからだといっていますが、これは茶の子のさらに子、つまり孫の意味ではなかったかと柳田国男が言っています。

(中村 羊一郎 )